青森県と岩手県にまたがって「戸(へ)」の付く地名が続いている。平安時代に付けられて以来の名称だそうだが、よく知られているのは「戸(へ)」の付くところが昔から有名な馬産地だということだろう。現在でも、八戸にある八戸家畜市場は、サラブレッド種の取引で北海道市場に次ぐ規模である。

　村重旅館は現在八戸に唯一残る「馬喰宿」(ばくろうやど)である。「馬喰」あるいは「博労」「伯楽」などという書き方もあるが、一般には牛馬などを取引する仲買人を指す。「馬喰」宿と聞けば、そのような馬取引の人々が泊まったと想像するが、事実はさにあらず。女将に教えていただいた話では、馬に荷駄を背負わせ、それらを売り捌くという商売をしていた人々の宿だったとのことである。

　中にはいると広々とした廊下がまっすぐ奥に伸びている。昔は土間で、この建物の中を通って馬を裏庭の方につないだのだそうだ。背負ってきた荷は、一階の広間で売りさばいていたのだとか。

　客室はすべて二階。六畳ほどの小さな客室がいくつかあるが、各室だいたい定員は「参名」。三人入ったら本当に練るだけのスペースしかないのだが、昔はそれが当たり前だったのだろう。